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大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)1572号 判決

理由

《証拠》によると、控訴人は、額面を金二〇〇万円、金三〇〇万円とし、いずれも満期を昭和二九年二年二八日、支払地及び振出地を大阪市、支払場所を株式会社三和銀行大正橋支店、振出日を同年一月一日、受取人を被控訴人とする約束手形三通を振出し交付したことが認められる(なお、右のうち、満期、振出日、受取人欄の各記載を除いて控訴人が右手形三通を振出したものであることは、当事者間に争いがない。)。

ところで、控訴人は、本件手形は北川産業の藤田海事に対する金五〇〇万円及び金二〇〇万円の貸金債務((ニ)、(ホ)の貸金)の支払いを保証するために振出し交付したと主張するが、本件手形の受取人が藤田海事でなく被控訴人個人であることは前述のとおりであるし、被控訴人が藤田海事の代表者、控訴人が北川産業の代表者であり、藤田海事が昭和二八年三月七日北川産業に対し金五〇〇万円を貸付けた((ニ)の貸金)という当事者間に争いがない事実に、《証拠》を総合すると、(ニ)の貸金は期限に返済されなかつたため、内金二〇〇万円については、同年五月六日改めて北川産業から藤田海事あてに利息を加え額面金二〇五万四、〇〇〇円、満期同年七月六日とする約束手形一通が差入れられて返済期が延期され、内金三〇〇万円を立替え支払つて決済し、同時に右立替金債権を北川産業から控訴人個人に対するものに切替える合意によつて、被控訴人に対する金三〇〇万円の貸借関係を成立させ((ロ)の貸金)、次いで右額面金二〇五万四、〇〇〇円の手形も満期に支払われなかつたので、同年七月六日に右金三〇〇万円の場合と同一の方法により決済と切替えを行い、被控訴人の控訴人に対する金二〇〇万円の貸借関係が成立するに至つたこと((ハ)の貸金)、右とは別に、被控訴人は同年三月中に控訴人に対し金二〇〇万円を貸付けたこと((イ)の貸金)、しかして、右(イ)、(ロ)、(ハ)の貸借の都度、控訴人は被控訴人にあてて借受額を額面金額とする約束手形を振出し交付したが、右手形が書替えられて本件手形三通になつたものであること、以上の事実が認められる。右認定事実によれば、控訴人の前記主張は失当というほかなく、従つてまた、貸金ないし手形の権利者が藤田海事であることを前提とした、白地手形の補充権濫用の主張、手形の譲渡につき取締役会の承認がない旨の主張、債権放棄の主張及び消滅時効の主張は、いずれもこれに判断を加える必要を見ない。

次に、控訴人は、本件手形債権は満期の昭和二九年二月二八日から三年経過後の昭和三二年二月二八日限り時効により消滅したと主張し、これに対し被控訴人は、右時効完成前の同年二月中、及び昭和三五年二月中と昭和三八年二月中にその都度控訴人に対し支払請求をしたことにより時効が中断されたと主張するが、被控訴人が控訴人に対し右日時に本件手形債権につき催告をしたことを認めるに足りる証拠がなく、仮に催告ありとしても、被控訴人が六ケ月以内に裁判上の請求その他民法第一五三条所定の手続を採つたことを認むべき証拠もない以上、これにより時効中断の効力を生ずるに由なきものである。そうすると、本件手形債権については、昭和三二年二月二八日限り消滅時効が完成したものというべきである。

被控訴人は、控訴人に昭和三九年一月二〇日被控訴人の代理人岩崎源吉に対し本件手形債権を承認する旨の意思表示をしたと主張するので、進んでこの点につき審究するに、原審及び当審証人岩崎源吉の証言とこれにより成立が認められる甲第七号証によれば、被控訴人は昭和三九年一月二〇日岩崎源吉を代理人として控訴人方に赴かせ、岩崎において控訴人に対し本件手形三通を示し、その支払い方と書替えを求めたところ、控訴人は「自分は事業に失敗し、銀行から不渡処分を受けて関係取引先や知人等に迷惑をかけているところ、現在負債が山積しており、この年では出世払いも覚つかず、返済義務のあることは分つていながら支払いができないことを了承されたい。今支払う能力もその見込みもない手形を書替えても仕方がなく、時効の如何に拘らず金の都合がつけば支払うから、その旨被控訴人に伝えてほしい。」と述べたことが認められるから、これによれば、控訴人は本件手形の書替えには応じなかつたけれども、債務自体についてはこれを承認したものといわなければならない。右に反する原審(第二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果はたやすく措信できないものである。しかして、債務者が消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、その後においてその時効を援用することは許されないものと解すべきであるから、控訴人が本件手形債務を承認したこと前述のとおりである以上、控訴人の時効の主張は失当である。

被控訴人が本件手形三通を現に所持していることは、弁論の全趣旨によつて認められ、また被控訴人が本件手形三通を満期に支払場所に支払いのため呈示したとの点はこれを認めるに足りる証拠がないけれども、前記のように岩崎が昭和三九年一月二〇日控訴人方において本件手形三通を呈示して支払いを求めたことにより、控訴人を遅滞に付する効力を生じたというべきであるから、以上認定の事実によれば、控訴人は被控訴人に対し本件手形金の合計金七〇〇万円及びこれに対する右遅滞の翌日の昭和三九年一月二一日から完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金(被控訴人は、商法所定の利息というが、右の趣旨に解される。)を支払う義務があり、被控訴人の請求は右の限度で正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

してみると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。

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